「八百屋」兼「フォトグラファー」? 聖蹟桜ヶ丘で異彩を放つ、小山幹男写真ギャラリー

「とんかつDJアゲ太郎」という漫画が好きだ。
https://shonenjumpplus.com/episode/10833497643049550155

記事の本筋とは関係無いのでざっくり説明すると、渋谷のとんかつ屋で生まれ育った少年がクラブカルチャーの楽しさに魅せられ、DJを志し音楽の世界に没入していくというお話。この漫画の面白い点は、主人公が「とんかつ屋」と「DJ」という全く種類の違う、まさに水と油の2つのジャンルに対して共通点を見出し、「どちらも両立し、どちらも高みを目指す」という点だと個人的に思っている。家業を取るか、夢を取るか、といったストーリーは昔から映画でも本でもありがちだが、うまくバランス・折り合いをつけながら二足のわらじを履いていくというのは、現代の、特に東京の若いアーティストにとっては一つのスタンダードになりつつあるんじゃないかと思う。(とんかつDJアゲ太郎はまだ連載中なので、最後はどっちか選ぶのかもしれないけど)

思えば、仕事をしながら「バンドマン」、「イラストレーター」、「デザイナー」、「漫画家」など、あえて本職にしないことで自由度を高く自分の好きなことをやっている人は周りにも結構多い気がする。そんな中から今回は「八百屋兼フォトグラファー」の紹介を。

出会いは少し前になる。雑誌の取材で用事があり、会社のある立川から南武線に乗り分倍河原で乗り換え、聖蹟桜ヶ丘駅に降り立った。某アニメ映画の舞台となっていることも関係してか、駅前は整然としてどことなく上品な空気が漂う。歩いている人も幾分身なりがすっきりしているようだ。(関係ないけど京王線・南武線、特に南武線は車内でビニール袋に包んだ缶チューハイを飲んでる紳士の比率が高い気がする。気のせいだろうか)

駅を出て川崎街道から大栗橋手前の五叉路に向かって歩く途中に、見るからに歴史の長い、どっしりとした店構えの八百屋が現れた。聖蹟桜ヶ丘にもこういうお店が残ってるんだなぁ、いいなぁと思いながら通り過ぎようとしたが、その八百屋の隣にはどうしても気にならざるをえない謎の建築物がコバンザメのように存在していた。

「放ってるなー、異彩」と思いながらその日は取材があったので素通りし、再度訪れた際に店主らしき人がいらっしゃったのでお話を伺ってみた。その人こそが、玉屋青果店2代目店主兼フォトグラファーの小山幹男さんだった。

「玉屋青果店」は創業50年を超える、このあたりでは最も古い八百屋。家族で経営しており、小山さんは先代から店を引き継いで店主として切り盛りしている。多摩市の新鮮な地場野菜も取り扱い、自家製のぬか漬けも評判。近隣の施設への野菜の卸しも行っている。小さな頃からまさに八百屋が「家業」であった小山さんは中学生の頃、カメラの世界にどっぷりとはまる。

「今はデジタルもやるけど、はじめはフィルムで。子どもの頃からずーっといじくって遊んでいましたね。途切れたことがない。それが今も普通に続いているという感じです」

そう言いながら見せてくれる分厚いアルバムには現像された写真がギッシリと収められており、そしてその分厚いアルバムが何冊も店の奥の棚に詰まっている。そんな膨大なアーカイブの中からセレクトされた写真が展示されているのが、八百屋の隣に併設された「小山幹男写真ギャラリー」。手作り感溢れるカラフルな外観が特徴のこのギャラリーは、常設の写真展として八百屋の営業時間と同期する形で開放されている。店主の小山さんはもっぱら隣の八百屋で店番をしているらしい。「本業と副業」、「家業と趣味」という垣根が物理的に曖昧で、2つのジャンルが限りなく1つの場所で共存しているちょっと珍しいタイプの店舗である。

小山さんは8年ほど前から富士山を題材とした風景写真をメインに撮り続けている。毎週、休日は早朝から車を走らせて富士山と日の出を狙いに行くらしい。

「富士山もですが、富士山を中心とした雲や太陽の動きに惹かれるものがあるんですね。独特な光をまとっている。飽きないですね」

ギャラリーに飾られた写真は同じ富士山を被写体としつつも、光の色味・差し方が千差万別で、さらにそこに日毎の雲のモーション、時間帯による空気の澄み方が掛け算されると確かに無限の表情があるように思えてくる。


一般的にも富士山は被写体として人気があるので、富士山を題材としたコンテストも幾つかある。毎年千点を超える募集がある「富士山写真大賞」で、小山さんは銀賞を獲得したこともあるとのこと。が、あくまで写真は自分が楽しむ趣味であり、それで生計を立てるという考えはまた別のようだ。写真家クラブ「写夢来」の会長という一面も持つ小山さん、富士山以外でも近所の多摩川にはよくフラリと撮影に繰り出すという。

「聖蹟桜ヶ丘は山も川もあるんで意外と動物もいて。発見があって楽しいですよ」

記念にポストカードを2枚買おうとしたら、小山さんは「いいよ、あげます」と、プレゼントしてくれた。

まちに根付いた家業と地元を大事にしながら、好きなことは自分のペースで一生続ける。仕事は仕事、趣味は趣味。これが表現やアートにまつわることだと、その落としどころを見つけるのは簡単なことのようで結構難しい。自分で腑に落ちるライフスタイルの確立、というと大げさかもしれないけれど、他人の評価や承認欲求に左右されず限りなく近い日常を充実させるというのはそれなりの境地だよなぁ、と考えながら来た時と同じように南武線で帰った。前の席ではおじさんがうまそうに缶チューハイを飲んでいた。

文・写真/松岡 真吾

小山幹男写真ギャラリー

青果店・ギャラリーともに8:00〜18:30
日曜・祝日休み
多摩市関戸4-12-8
京王線聖蹟桜ヶ丘駅徒歩5分
042-374-3915

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