酒まんじゅうで夢をみる。北八王子「内田酒まんじゅう」

酒まんじゅう。それは魅惑の白いふわふわ。「枕にしたいおまんじゅうランキング」があれば、ベスト3にランクインするのではないかと思っている。今川焼きは高さがありすぎて首が痛くなりそうだし、どら焼きは高さ的にも寝心地的にも最適そうに思えるが、しっとりした生地が若干ベタつくだろう。そもそもどら焼きはおまんじゅうではない気がする。

その点酒まんじゅうは、小麦粉と酒麹と水のシンプルな材料で出来ているので、寝返りを打つたびにほっぺたがベタつくこともなく、さらりとした寝心地なはずだ。さらに蒸したてホカホカの酒まんじゅうなら、冬場はきっと幸せな夢が見られるだろう。

甲州街道沿いの八王子市から西は、そんな魅惑の酒まんじゅうの一大エリアだ。

八王子は、山がちで稲作ができず、畑作を中心としてきた。あわやひえなどの雑穀の類を主食としていたため、米や小麦をつかったものはごちそうだったそうだ。そのため、昔はお彼岸やお盆などのハレの日に家庭で酒まんを作って楽しんでいた。

米や小麦が貴重といえど、江戸に近いこともあり、農作物の需要も高く、比較的裕福で、造り酒屋などの副業をもつ家も少なくなかった。畑作と酒屋。この2つがあったからこそ、八王子が酒まん一大エリアに成り得たのだ。

現在では、酒まんをつくる家庭はほとんどなくなってしまった。だが、市内には酒まんじゅう専門店がいくつもあり、ふつうの和菓子店でも酒まんをつくっている。ふらりと立ち寄った和菓子店で、酒まんじゅうに出会える。酒まんが地域に溶け込むまち、それが八王子だ。

酒まんパラダイス八王子の中でも、今回は名店と名高い「内田酒まんじゅう」を訪れた。

北八王子駅から徒歩5分。住宅街に突如として現れる茶屋風の建物。酒まんじゅうの文字がはためく暖簾に心を奪われる。「ごめんください」年季の入った引き戸をカラカラと開ける。3、4人入ればいっぱいになってしまうほどのこぢんまりとした店内の奥では、ぞくぞくと酒まんじゅうがむされている。

右:童謡「たきび」の作者、渡辺茂は八王子近辺の大学講師をしていた時、このお店によく通っていたそう。

9:30の開店から、売り切れるまでが営業時間。平日でも午前中に売り切れてしまうこともしばしばあるという。それほどまでに人気の酒まんじゅうをさっそくいただく。

ふっくらまんまるの印象だった酒まんじゅう。しかし、内田の酒まんじゅうは昔ながらの製法で作られ、素材感たっぷりで、「いびつ」な形をしている。自然発酵の麹を使って手作りした生地は、その日の気候や発酵具合で微妙に変化するらしい。「あぁわたしの枕まんじゅうのイメージが台無しだ…」と少々落ち込んだものの、一口食べてみると落胆は歓喜に変わった。

一般的なイメージの酒まんじゅうは、つるつるふわふわで、枕に例えるなら、包み込む優しさが魅力の羽毛100%枕。内田の酒まんじゅうは、弾力しっかりもっちもち。例えるなら、身体の負担をやわらげる低反発枕だ。

もっちりとした食感の生地から麹の香りがふわりと口の中に広がる。八王子では主流だというつぶあんは甘さ控えめで、生地との相性が良い。昔から各家庭で作られてきた素朴なおまんじゅうそのままに、素材の味がバランス良く生かされている。ついつい2つ、3つ…と手が伸びてしまうほど、飽きがこないおいしさだ。

ひとつひとつ丁寧につくられる酒まんじゅうは、昔ながらの家庭の味を感じさせる。ハレの日にお母さんやおばあちゃん、子どもたちがワイワイとにぎやかに酒まんじゅうをつくる様子が目に浮ぶ。そんな優しくあたたかい味だ。

今回の取材で酒まんじゅうに魅せられてしまった。1日中酒まんじゅうのことを考えながら過ごしたこの日。奥深い酒まんじゅうの世界に想いを馳せながら、酒まん枕で眠る夢をみるかもしれない。

写真・文 一楽まどか

内田酒まんじゅう

八王子市石川町2966-16
JR八高線北八王子駅徒歩5分
042-642-0389
月・第一、第三日休み
9:30〜売り切れまで

Share
Share
Share