東京のローカルへ。〜東村山編〜「くまの食堂&きりん館」

東村山市。東京に住んでいる人であっても、隣街の東大和市や東久留米市などと、混同しがちではないだろうか。

市名に聞き覚えのある方なら、東村山音頭(以前まで東村山駅のホームで流れていた)や、出身者である志村けんさん(東村山駅東口には「志村けんの木」がある)が思い浮かぶだろうか。もう少し詳しい方だと、初夏の菖蒲まつりや国宝のある正福寺を思い浮かべるかもしれない。

東村山と言っても、一口には括れないので、今回は、極めて個人的に行きたいところ・会いたい人を紹介したい。

「くまの食堂」は、お洒落なアパートの2階に。

木の香りに癒されるリビングを、カフェ風にリフォーム。

まず訪れたのは「くまの食堂」。こちらは、知る人ぞ知る隠れ家レストラン。これまでは店主・平沼美春さんのご自宅で営む「おうちレストラン」だったが、ついに店舗を持ったとの知らせを受け、たまらず会いにやってきた。

東村山駅から歩いて5分ほど。普通のアパートだが、201号室がお店だということで、インターフォンを押して中に入る。「はーい、どうぞ」と平沼さんの明るい声が心地よく響く。お店に来たというよりも、友人の家に来た感覚だ。

個室には、かわいいままごと用のキッチンも。

くまの食堂のメニューは、「くまの食堂のお昼ごはん」(ミニデザート付、1,200円)のみ。野菜のおかず6種と、汁物にご飯のワンプレート。その一番の特徴は、動物性たんぱく質・白砂糖を一切使っていないこと。

単にそう聞くと「意識が高い系のごはん!」と身構えてしまうが、この店のメニューの一番魅力は、いたってシンプルな「おうちごはん」であること。

自宅レストランの頃の写真。リビングのように落ち着く空間は今もそのまま。

娘さんのアトピー治療をきっかけに、野菜中心の食事を作りはじめた平沼さん。なんとはじめは料理が苦手だったそうだ。「家族の健康を守りたい」その一心で、一念発起。いんやん倶楽部の梅崎和子氏から「重ね煮」という、野菜の旨味や栄養を逃さない調理法を学んだそう。

重ね煮は、野菜の皮をむかず、灰汁も取らず、煮汁もそのまま。手をかけすぎず素材の味を生かす、とはまさにこのことだ。くまの食堂で出されるメニューは、平沼さんの家族も毎日食べているもの。お店では、家族愛の詰まった正真正銘の「おうちごはん」をいただける。

カウンター越しの平沼さん。お母さんの背中、という感じがホッとする。

店舗ができたことをきっかけに、平沼さんがこれから力を入れたいと思っているのが料理教室。

「野菜を食べようとして身構えちゃう人も多いけど、実は簡単なこと。手間をかけなくても美味しく食べられること、無理のない範囲で野菜を食事に取り入れられることを伝えたい」

以前から要望があった時には、レシピを教えたり、マンツーマンで料理教室を開いたりしていた平沼さん。店舗ができたことで、より多くの人に伝えられるようになったと嬉しそうに話してくれた。


ファストフードでは味わえない滋味に、箸が止まらなくなる。毎月第一金曜・土曜には、素材を生でいただく「ローフード」ランチに。

デザートももちろん手作り。この日は豆乳抹茶アイス。

少し話が脱線するが、個人的に東村山のイメージは「懐かしいホームタウン」。その理由の一つには、くまの食堂の存在が確かにある。いつの間にか胃袋をつかまれ、「ああ、くまの食堂のごはん、食べたい」そんな純粋な欲が湧いてくるのが、このお店のすごいところ。頭よりも体が先に、このお店の魅力を覚えている。

くまの食堂の“おふくろの味”。それは昔ながらの味とは違うが、それがかえってリアルな「懐かしさ」を覚えさせるのかもしれない。


そして続いてやってきたのは、昔ながらの駄菓子屋「きりん館」。佇まいからしてノスタルジーを感じる。創業33年。開店時間は14:00〜18:00と短めだが、放課後タイムとあって、子どもたちがぞろぞろとやってくる。東村山っ子御用達の店だ。

いつもエプロン姿の禮子さん。「お母さん」感に親しみが湧く。

店主は佐々木禮子(あやこ)さん。大人になってから再訪する人も多く、「おばちゃんは変わらないね〜」なんて言葉が嬉しいのだと、はにかみ。80歳になるとこっそり教えてくれた禮子さんだが、「そう言われたら、なかなかやめられないわよね」と言って、爽やかな笑顔を向けてくれた。

きりん館は、33年前、禮子さんのご主人が体調を崩したのをきっかけに、禮子さんとお母さんが自宅でお店をやろうと決心して始めたそうだ。当初は古本屋だったため、今も壁の一面には古本がずらり。

現在も購入可能(100〜200円)の古本。70年代のお宝が眠っていると話題になり、コレクターが買いあさっていったことも。

「商品は娘ふたりと一緒に選んだのよ。当時は女手でよくかんばったわね」、と懐かしそうに目を細める禮子さん。

そしてより手に取りやすい商品を、と置きはじめたのが駄菓子だ。その狙い通りに、子どもたちの反応がよく、気づけば駄菓子が主流商品に。店内の陳列棚には、見るも懐かしいベストセラーの数々が並ぶ。大人でも心が躍る品揃えだ。


お店の奥が、禮子さんの定位置。

ここで「きりん館」という店名について聞いてみる。「館」の字は、禮子さんのお父さんが吉祥寺で営んでいた書店・光陽館から取ったそうだ。
では「きりん」は?

「絵本でも、きりんの悪役って聞いたことがないでしょう。娘と相談して、親しみやすくて具合がいいってことでつけたんですよ」
確かにお店に漂う柔らかい雰囲気は、「らいおん」でも「ぞう」でもなく、「きりん」という感じ。店の片隅で、きなこ棒をもぐもぐしていると、不意に温かい感情が湧き上がってくる。これはのんびり草を食むきりんの気持ち…(多分)。

「またのご来店 首をなが〜くしてお待ちしております」お店で「きりん」を見つけるのも楽しい。

ちゃっかり、きりん。ぜひ見つけてください。

子どもたちは、お小遣いを念頭に置きながら、「あれとこれと…あ、だめだ足りない。じゃあこっち」と駄菓子を選んでいく。
駄菓子とにらめっこしながら、最高のコストパフォーマンスを目指す楽しみは、大人になると味わいにくい贅沢なひとときかもしれない。


スマートフォンを使いこなす禮子さんだが、会計に使うのは、かわいい小さなそろばん。お馴染みの「パチパチ」という音が心地いい。

「子どもたちの社交場」とも称される、街の駄菓子屋。学校や家では言えない子どもたちの本音が、ここでポロリと漏れることもあるそうだ。

きりん館で感じたのは、ここでは大人もちょっと甘くなってしまう、ということ。駄菓子を大人買いしたり、童心にかえって、ついついゲームに夢中になったり。それでも、値段はたったの数百円。値段以上の価値が得られる場所。それに気がつくと、この場所がなぜ長年親しまれてきたのかが、よく分かる。

そして一番の魅力は、なんといっても禮子さん。お店の奥で待っていてくれる安心感は、このお店になくてはならない。
今日も禮子さんに会いたい、そう思うのだ。

禮子さんが大事にしている写真。数年前に他界されたご主人と。店には夫婦の歴史もしっかり刻まれている。

くまの食堂の平沼さんに、きりん館の禮子さん。図らずも「母」のような包容力のある二人に会った。東村山は、会いたい人のいる街。そう言えることが、とても幸せに感じられる街さんぽであった。

文・写真/佐藤琴音

くまの食堂

東村山市本町2-14-17 C-terrace 201
西武新宿線・国分寺線・西武園線東村山駅徒歩4分
090-7849-1861 *数に限りがあるため、来店前にお問い合わせを
日祝休(不定休あり)
11:00〜14:00(木曜は基本的に料理教室)
http://kumano-gohan.com/

きりん館

14:00〜18:00
金休
東村山市久米川町4-46-64

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