「東京こけし」誕生秘話を訊きに。大蔵木工所(八王子)

「東京こけし」との出会いは、八王子の土産屋。棚にちょこんと並んだ愛らしい姿に、目が釘付けになった。こけし、とはいえど、その独特の背格好は、東北のそれとはずいぶん異なる。調べてみると、夫婦で営む木工所で唯一作られているものらしい。東京こけしを作り続けて40年余。八王子は大蔵木工所を訪ねた。

出迎えてくれたのは、大蔵さんご夫婦。東京こけしは、削りをご主人・國宣(くにのぶ)さんが、絵付けを奥さま・昌子さんが担当している。

生まれも育ちも八王子の國宣さんは、なんと木地師(ろくろを使って木を削る職人)の五代目。もともとは長野県・木曽のお家だったが、先々代が早くして亡くなったのを機に先代が上京。戦後は八王子の繊維産業を支える、シャトルなどの織り機の木製部品を作っていたそうだ。

しかし國宣さんが後を継いだ頃、折しも八王子の繊維産業は衰退期に。「今までにやっていないことをやらなければ」と、様々なものを作りはじめたという。

地域のお祭りや、ゲームセンターで人気・かの太鼓たたきゲームにも使われているバチはロングセラー商品。要望に応じて1mm単位で直径を調整できるというから驚きだ。

左はヒノキを削ったアロマボール。右は試しに作ってみた木製リンゴ。既定概念にとらわれない柔軟なものづくりが國宣さんの強み。

「もう30年前になるかな。イベントに呼ばれて出店したときに、木製品の実演販売をしたんだよ。でもただ木を削っているだけじゃお客さんが来なくてさ。だから“あなたの好きなにかたちに削ります”って貼り紙をしたわけ」

その場でお客さんの要望に応えるという、作り手にとってはハラハラするような販売スタイルにも思えるが「作れないものはないからさ」と、さすが職人の心意気。

「球体」や「コマ」、はたまた「モスラ」など…無理難題とも思える要望にも応えていった國宣さん。その時に初めて「こけし」を作ったそうだ。お客さんにも好評で手応えを感じたが、円柱形の立ち姿は東北のこけしそのもの。「オリジナリティがなきゃ売れない」と、それから唯一無二のこけしを模索しはじめたそうだ。

奥さま・昌子さんともアイデアを出し合いながら、「親しみのあるこけし」を目指したという。丸みを帯びたかたち、誰もが知っているような花模様に、二人の想いが現れている。今の姿は、月日をかけてかたち作られたものなのだ。

1984年、初めて新聞に取り上げられた。この時に「東京こけし」の名がついたそうだ。大きな髪型ゆえ「黒柳徹子」あるいは「塩沢とき」とも。

「同じものにはしたくないから、あえて東北のこけしを見ないようにして考えたよ。だから東北とは作りかたが全然違うわけ。向こうでは頭と胴を別々に作るけど、ここでは1本の木を削って作ってるんだよ」

東北のこけし。比べるとその違いがよく分かる。

「ハピネスリング(幸せの輪)」と呼ばれる、こけしの首にかかるリング。このリングも1本の木から同時に削り出している。

「そう言うと、みんなびっくりするね。むしろ『一度リングを水につけて膨らませてから、ポンってはめこむんですよ』なんて冗談で言ったら、意外と信じる人が多くてさ(笑)」と、國宣さん。いたずら少年のような笑顔がまぶしい。

左は女の子、右は男の子のこけし(小:1,000円)。首にかかる「ハピネスリング(幸せの輪)」は、一度つけたところ反響が大きく、以後全部につけるようにしたそうだ。

一つひとつ微妙にかたちや表情が異なるのも、手作りの良さ。個性が表れるようで、見ていて楽しい。

大きな帽子をかぶった、ハイカラなこけし(1,500円)も。「これ、どうやって削ってるの?」そんな不思議さが魅力の一つになっているとか。

高尾山の天狗にちなんだ「叶輪天狗(かなうわ てんぐ)」(特大:5,000円)も。

手のひらサイズのキーホルダー(1,000円)。小さいためハピネスリングを削るのがいっそう難しい。

こけしの顔と花柄を描くのは昌子さん。当初は別の人にお願いしていたそうだが、何となくイメージが違うと、國宣さんが昌子さんに頼んだという。

花柄を描く前には、本物を観察したり、図鑑で調べたりと、研究に余念がない昌子さん。描く際に特に難しいのは、面が平らではないこと。単純な線やかたちでも意外と歪みやすいのだそうだ。円柱ではなくなった分、「かわいくなったけど、絵が描きにくくなっちゃったのよ」とぽつり。

「こけしの表情は、私はにっこりしているのがいいと思ったんだけどね、お父さんは切れ目がいいって言うし。ずっとけんかばっかりだったの(笑)」

とはいえ、ちゃっかりこんな仲良しショットも残されている。

そして最後に、実際に作っているところを見せていただいた。
「あっという間だぞ」との声を合図に、ぎゅるぎゅると機械が回りはじめた。

材料の長さ15㎝ほどの角材。絵が映えるように、色の白いミズキを使用する。

ノミを手に取ると、國宣さんの表情がきりりと引き締まる。その気迫のある姿は、言葉をのんで見入ってしまうほど。動きに滞りはない。「ここ」というタイミングで機械を止め、ノミを代えてまた削り出す。その迷いのない職人然とした動きが、美しい。

頭の方から削っていく。

リングが胴体から切り離されると、カラカラと勢いのある音が響く。

削ること、ものの3分。
「ほれ、できた」と、険しい表情を一変させ優しく微笑んだ國宣さん。差し出してくれた東京こけしを手に取ると、思わず「あったかい」と声が出た。生きているかのような、優しい熱が手のひらに伝わる。
「できたてほやほやの、こけしちゃんだからね」
昌子さんの柔らかい声が響く。
できたての東京こけしを陽にあてると、色が白く凹凸がないため光が反射する。東京こけしは、大蔵さん夫婦の子どもみたいだ。
こけしを包むぼんやりとした輝きをながめながら、そんなことを思った。

写真・文/佐藤琴音

大蔵木工所

八王子市元横山町3-12-3
JR八王子駅徒歩16分
0426-22-2978
日曜休み  
8:00〜18:00

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