平日午後、多摩川競艇場にて


ギャンブルというのものをしたこともなければ、賭け事の場に行ったこともない。
ただ興味はある。ギャンブルにというより、香ばしい濃度で人を惹きつける磁場のある場所はいつでも気になる。
普通に生活していたら一生行かない場所や出会わない人々は一体どのような顔と匂いをしているのか。

訪れたのは平日火曜、午後の多摩川競艇場。空には鈍い色の雲が広がっている。
南武線南多摩駅で下車し、是政橋から多摩川を跨ぎ競艇場方面へ適当に歩いて行く。やがて入り口らしきものを発見、「北門」とあるのでメイン入り口ではないのだろう。
早速入ろうと思うが、予備知識ゼロで来たため、そもそも入場にいくらかかるかも知らない。
門の前には警備員が三人。訊くのも調べるのも面倒だったので、素知らぬ顔でふらぁっと入ろうとしたら「あ、ちょっと」と止められた。「ここ、100円入れて」駅の改札のようなゲートに小銭を入れるとカタンッと扉が開き、入場。辺りは学校の校舎裏のように閑散としている。競馬なり、競輪なり、賭場といえば「畜生!」とか「馬鹿野郎!」とか怒号や罵詈雑言が飛び交うイメージがあったが、物音ひとつ聞こえない。もしかして今日はやってない?でも入場できたしな、やってないことないか、と思いながら場内をうろつく。あれか、平日だからあんまり人いないのかなと思った瞬間視界が開け、液晶モニターを見つめる大勢の男たちが現れ面食らった。

レースが始まっても終わっても、誰も騒がない。そもそも会話をしている人が少ない。皆一様に押し黙りながら走るボートを見つめ、レースが終わればスッと目を伏せ踵を返してどこかに消える。熱気とは無縁で、でもどこか謎の緊張感がうっすらと霧のように漂っている。ノスタルジーや哀愁とは少し違う。何かを諦めてるような、ぼんやりとそれを目で追うだけのような、寂寥とした風情。ただ居るだけでもつまらないので、8R目でせっかくならと100円賭けてみた。システムはわからなかったが、隣にいたベテラン風の男性の手順を横目でカンニングしながら、覚える。なるほど、マークシートに予想した着順・参加するレースナンバーを書いて、券売機に賭け金を入金、マークシートを差し込むと投票券が発券される、当たれば払い戻し所でお金を受け取る。だいたいそんな感じらしいということが分かったので、見よう見まねで発券。券を手に取るとこの空間に自分も参加してしまったことへの実感が伴ってくる。適当に書いた2連単はもちろん当たるわけもなく、レストランウェーキーで牛炊を啜って場内を出た。すぐ目の前の焼き鳥屋では悔しがるわけでもなく、喜ぶわけでもなくといった表情の男たちが無言でグラスを傾けていた。

写真・文/松岡真吾

Share
Share
Share