さがせ!天然たいやきくん 〜府中 たいやき ちあき篇〜


庶民のおやつ、たいやき。明治期から存在する和菓子の一種でその歴史は長い。しかし「和菓子」と言うよりも「おやつ」と表現したくなる親近感がたいやきには存在する。

そんなたいやきに天然物と養殖物があるのを知っているだろうか?
たいやき好きの間では、1匹ずつ焼き上げるものを「天然物」、複数を一度に焼き上げるものを「養殖物」と表現する。

「天然物」のたいやきは現在全国に108店舗しか残っていない絶滅危惧種なのだ。その内、東京には36店舗あるが、10店舗は「鳴門鯛焼本舗」というチェーン店のため、個人商店の天然たいやきは26店舗しか残っていない。しかも、高齢の店主が多いため、この数字も徐々に、だが確実に減っている。

そんな庶民の文化遺産とも言える、天然物たいやき屋が多摩エリアには5店舗現存する。
天然物たいやき保存の意味を込めて、多摩に潜む天然たいやきを捕獲していこうと思う。

府中で40年 たいやき「ちあき」


最初に捕獲に赴いたのは、府中市のたいやき「ちあき」。近所の人のみならず、全国からもその味を求めてやってくるという名店だ。市内で何度かの移転を繰り返しながらも、府中ひとすじ40年でたいやきをつくり続けている。




「ちあき」のたいやきは、甘すぎず、ほどよい塩気が絶妙なバランス。たいやき御三家の一つ、「わかば」の店員も通うほどの逸品だ。

たいやき御三家
「麻布十番 浪花家総本店」、「四谷見附  わかば」、「人形町 柳家」の3店のこと。
浪花家は「およげ!たいやきくん」のモデルとなったことでも知られる。


昔ながらの商店が残る、晴見町商店街の中に「ちあき」はある。お店の窓から「こんにちは」と声をかけると、優しげな目元のご主人今村さんが「いらっしゃい」と一丁焼きをくるりと回しながら迎えてくれた。店内はこぢんまりとして、たいやきを焼くスペースとレジスペースくらいしかなく、40年続く名店の雰囲気は感じられないが、ご主人から漂う余裕と貫禄が安心と期待を抱かせる。

商店街に移転してきたのは5年前。その前はずっと駅前近辺で営業をしていたそうだ。その当時は、シャッターを開けると行列が出来ていて、休む間もなくたいやきを焼き続け、10人以上の従業員とともに営業していたこともあるとか。府中でたいやきといえば「ちあき」と言われるほど人気だった同店が、一時期姿を消していたことがある。

「鯛こうぼう」時代のお店

駅前で営業していた友人のたいやき屋から、ここで営業してもらえないかと打診を受けたという今村さん。話を受け、いざ営業を始めるという段階に差し掛かった時、権利上の問題で店名に「ちあき」を使わないでくれという通知がきて驚いたという。結局元々その場所で営業していたたいやき屋「鯛こうぼう」の名で営業をすることになってしまった。


「最初の3年かな。お客さんが来なかったよ」と苦笑いを浮かべる。元々ついていたお客さんも名前が違うため、足が遠のいてしまったらしい。「あとになって、『ちあきの親父さんみたいだな〜とは思ってたんだよ。3年損しちゃった』なんて言われたりしてさ」地元の人々はきっと「ちあき」の味とご主人の人柄に惚れ込んでいるのだろう。

7年の営業の後、現在の場所へ移転した際に、お客さんから「ちあき」の名前でやってよ!という強い要望を受けて、一時幻となっていた「ちあき」が復活した。

晴見町商店街に移ってからは、駅前ほどの活気はなくなったそうだ。「店の前を誰も歩いてないんだよ」と笑いながら語る今村さん。それでも、商店街の人々との関わりを楽しんでいる様子で、今村さんのあたたかい性格と商店街の雰囲気がほどよくマッチしている。

今村さんは、お客さんが来ると「今日も暑いね」と声を掛ける。取材中にも、しとやかなご婦人が店先にやってきて談笑をしていた。短い時間だが、そういう会話をとても大切にしている。
「駅前がどんどん発展して、みぃんなそっちにいっちゃうね。でも、それじゃ面白くない」
お金と品物を交換するだけの行為になってしまった買い物が、もっと人と人との会話ができる時間になってほしいという思いが伝わってくる。


店内の奥にイラストが飾られている。気になったので尋ねると「姉が漫画家なんだよ」という衝撃の答え。「あしたのジョー」のちばてつや氏や、「アンパンマン」のやなせたかし氏とも親交があるそうだ。さらに、なんとご主人自身も過去漫画家だったという。「姉のアシスタントをしていた流れでね。僕自身は漫画家になりたいと思ってなかったんだけどねぇ」とさっぱりした話口。

「ご主人の絵はないんですか?」と聞くと、「今残っているのはこれだけ。あとは全部捨てちゃったよ」と、店の奥に飾られた手ぬぐいに手を添えて目を細める。


お店の看板のイラストもかわいらしかったので、ご主人かお姉さんが描いたのだろうと思っていたが、こちらはなんとご主人のお父さんが描いたもの。商業デザイナーだった関係で描いてもらった貴重な看板だ。


「持ってみるかい?」と差し出されたのは一丁焼き!天然物たいやきを食べたことははあれど、さすがに持ったことは無い。興奮しながら手に持ってみると、それは想像を遥かに超えてずしりと重い。「一つ2kgあるからね。昔は1.5kgなんてのもあって女の子でもくるくる焼いてたもんだよ」。たしかにこの重さを1日中、暑さに耐えながら焼き具合に気を配りながら焼き続けるというのはかなりの重労働だ。ご主人の焼く姿をみていると、いとも簡単に生地と餡をつめて、くるり、くるりと焼いていく。常連さんは「ここのご主人は元気だから!」と笑っている。「もう元気じゃないよ!」なんて返す姿は元気そのもの。


「子どもたちがやってきて『ここのたいやき超うめぇ』っていいながら笑いあってるのをみると、まだ残していかなきゃなって思うよ」暑くて重くて、とても楽な仕事ではないはずだ。それでも、「残したい」という気持ちで営業を続けている。来年で80歳を迎えるとは思えないほどのエネルギーを感じて、負けてられない!とみなぎる思いを抱えつつ、天然たいやきを捕獲して帰るのであった。

文・写真/一楽まどか

たいやき ちあき

10:00~19:30 火曜休み
府中市晴見町1-15-17
042-361-8416

Share
Share
Share