初対面「ちょうちんサイクルの昇くん」

ライター根岸達朗の「初対面」を記録する連載です。第2回目は、OLD MTB(オールド・マウンテンバイク)のカスタムショップ「ちょうちんサイクル」の中村昇(なかむら・のぼる)くん。

根岸 昇くん、今日はよろしくお願いします。

中村 こちらこそ。あんまりインタビューとか慣れてないんで、あれですけど……。

根岸 スケボーやるんですね。

中村 昔はずっとやってて、最近は仕事の合間とか身体動かしたいなってときにちょっと。昔みたいに友達と集まってという感じじゃないんだけど。

根岸 ……家はこの辺なんですか?

中村 うん。子どもがいるんですけど、学校に通いやすくて、駅が近いところを探してここに。子どもは2人いて、上が女で下が男。上の子はもう高校生なんですよね。

根岸 高校生。大きなお子さんがいるんだなあ。

中村 ここを選んだのは、子どものためっていうのがひとつですね。あとは僕の作業部屋が必要だったこと……。マウンテンバイクのカスタムショップをネットでやってるんですけど、荷物がすごい量なんですよ。それを保管できる場所が欲しくて、今のマンションを買ったんです。見た目は普通のマンションなんですけど、中がめちゃくちゃ広かったのがよくて。

根岸 確かに多摩ニュータウンのマンションって、広いところ多いですね。僕も以前、多摩ニュータウンのマンションを買って、妻と息子の3人でそこに住んでたんです。……まあ、先日離婚したんですが。

中村 あ、そうなんですか。

根岸 それでマンションを売って、今は日野に平屋を借りてひとり暮らしをしています。結婚してたときは車移動が多かったんですけど、この機会に自転車にも乗りたいなあなんて思っていて。……気軽にいろんなところにいけるのがいいなと。

中村 自由だからいいですよね、自転車は。ルールが少ないっていうか。好きなときに停まれるし、好きなときにUターンできるし。僕バイクも乗るんですけど、バイクはルールがいっぱいあるから大変なんですよ。

根岸 はは、確かに。ルールだらけですよね。

根岸 今の仕事は始めてどのくらいになるんですか?

中村 7年半くらいかな。

根岸 ずっとひとりでやっている?

中村 うん。縛られるのが苦手っていうとあれですけど、ひとりで好きなようにできるのが好きっていうか。のんびり……マイペース……そんな感じです。

根岸 昔からマウンテンバイクが好きだったんですか?

中村 まあ、好きなジャンルでしたね。古いマウンテンバイクのカスタムに特化した店というのがなかったから、自分で作ろうと思って。

根岸 へえ。古いマウンテンバイクのカスタム。

中村 そういう遊びがあるんですよ。アメリカでは大勢マニアがいるOLD MTBっていうジャンルなんですけど、僕が始めた頃はまだぜんぜん日本では知られてなくて。……自分が好きな世界を広げたかったっていうと、なんか調子こいた感じですけど、この仕事を始めたのはそういう気持ちもちょっとはあったかもしれないですね。

根岸 基本、パーツ売りなんですね。

中村 そうですね。完成車も売ることはあるんですけど、最近はオーダーをもらって組む以外はあまりやらないんです。基本的には一個一個のパーツにこだわってカスタムしたいっていう人向け。MTBとかBMXをファッションで乗りたいっていう人よりも敷居がもう一段高い感じですね。

根岸 スケボーの趣味もそうですけど、なんか全体的にストリートな雰囲気ですよね、昇くん。

中村 ストリートは好きですね。中学からスケボーをやってて、そのへんの好みは今でもあんまり変わってないと思います。あとバイク遊びも昔から好きで、仲間と山に行って荒れた道を走ったり……。

根岸 楽しそうだなあ。基本アウトドアな感じなんだ。

中村 うん。外で遊ぶのは好きです。暑いとき以外は。

根岸 お店を始める前はどんなことを?

中村 普通に自転車屋に勤めてました。でも、いろいろあって店を畳むという話になって、じゃあいいタイミングだから自分で何かやるかっていう感じで。……まあ、ノリだけですね。どうにかなるって思ってましたし、そういう風に思わないと何も始められないですから。

根岸 僕もフリーランスで、ひとりで仕事してるんですよ。ただ、僕がフリーになった理由は、満員電車乗るのつらいなーとか、会社勤め合わないなーとか、そういうことだったので、なんか趣味を仕事にしようとかそういう感じではぜんぜんなかったんですけど。

中村 ライターってどういう仕事なんですか? ぜんぜんわからないんだけど。

根岸 人に会って、話聞いて、記事書いて……いろんなライターさんがいると思いますけど、僕はインタビューが多いですね。

中村 へえ。

根岸 いろんな考え方を持った人に会えるから楽しいですよ。ただ、この仕事って一期一会の出会いも多いんですよね。インタビューをきっかけに友達になるとか、次につながるような関係性ができたらいいなって思っていて。

中村 そうなんだ。

根岸 ところで、昇くんに聞きたいんですけど……人生にはやっぱり、趣味が必要ですかね?

中村 人それぞれだと思うけど、僕の場合はそうですね。昔から何かしらやってないと、みたいなとこはあります。

根岸 僕は趣味と言えるような趣味がないんだよな。

中村 あると楽しいですけどね。例えばバイクだったら、風の気持ち良さとか音の良さとか、やっぱいいですよ。僕は山のなかを走ったりするので、そこで自然を感じるのも好きで。……野生動物にもよく遭遇しますしね。いつか、夜の山も走ってみたいなって思ってるんです。

根岸 ああ、夜の山。良さそうだなあ。

中村 趣味で人とつながるのも楽しいんです。山のバイク遊びでは結構、そのときにたまたま出会ったおじさんたちと仲良くなることも多くて。おかげでいろんなところに友達ができました。

根岸 趣味があると、仲間は増えそうですね。

中村 何よりも、僕は乗り物をいじるのが好きなんでしょうね。小学1〜2年のときから自転車はいじってたので、そのときの楽しさを忘れられずに今に至ってるようなところはあるかもしれない。おじいちゃんが自転車屋だったりとか、親父が機械工やってたりとか、そういう環境で育ったので自転車いじりも自然とやってた、みたいなところがあって。

根岸 へえ。子どもの頃から好きだったことをずっとやっているんだ。

中村 ですね。基本的には子どもの頃と何も変わってないんだと思います。

根岸 昇くんは挫折したことありますか?

中村 うーん。挫折っていうか、悔しい思いをしたことはありますね。実は僕、スケボーでプロを目指してたんですよ。でも、現実はやっぱり厳しくて。

根岸 それっていつ頃ですか?

中村 21歳とか、そのくらいかなあ。といっても、そのときは挫折って感じでもなかったけど……。あんまり覚えてないな。なんかやらなくなったんです。挫折と言えるようなものがあるとしたら、むしろそのあとかな。……ピストバイクって分かります?

根岸 10年くらい前に流行りましたよね。ブレーキがないロードバイクみたいな?

中村 そうそう。あれを僕は結構やっていて、そういうショップで働きながら、いろんな大会にも出てたんです。一時期はちょっとしたサポートも受けながら楽しくやってて。

根岸 スポンサーが付いてたってことですよね。それはかなり本格的だなあ。

中村 でも、怪我しちゃって、思うように動けなくなっちゃったんですよ。一応、怪我は治って乗れるようにはなったんですが、やっぱり若い人たちの勢いの方がすごかったし、もう上を目指すのは無理だなっていうのがあって……。

根岸 いくつくらいの頃ですか?

中村 30歳くらいですかね。そのあたりで今の仕事も始めてるんです。

根岸 へえ……。そのときはもう結婚してたんですか?

中村 あ。僕、結婚してなくて、一緒に住んでる今の彼女とは事実婚みたいな感じなんですよ。2人の子どもたちも、実は彼女の連れ子で。

根岸 そうだったんですね。

中村 籍を入れなくちゃいけない理由があるなら入れればいいんじゃないかなって思ってるんですけど、今のところはそんなに入れる理由がないんです。……子どもたちの父親が今のパートナーと一緒にうちに遊びに来たりもしていて、結構自由で楽しい雰囲気なんですよ。

根岸 実はうちも、結婚している理由がないよねってことで離婚していて、そのへんの感覚は近いかもしれないなあ。恋愛感情はもはやなかったんですが、相手のことを嫌いになって離婚をしたとかではないので、一緒に子どもの成長を見守っていけたらいいなと思っていて。

中村 ああ〜そういう感じならいいですよねえ。……離婚して子どもに会わせてもらえなくなったとかっていう人も結構いるけど、普通に考えて変だなあと。いろいろ理由はあるんでしょうけど、大人も子どもも、本人がどうしたいかってことですよね。会いたいなら会えた方がいいと思いますから。

根岸 そうですね。僕もそう思いますよ。

中村 共感してもらえてよかったです。普段、あんまりこういう話はしないので、今日はちょっと珍しい感じです。

根岸 この街にはしばらく住むんですか?

中村 特にこだわってはいないです。前にもふらっと一年間くらい沖縄に住んでたこともありましたし。

根岸 へえ、沖縄。いいですね。

中村 田舎にも住んでみたいし、海外もいいなあと思いますよ。……例えばアメリカだったら、日本よりもマニアな人がいっぱいいて楽しそうですよね。こういう仕事なんであっちでもできると思いますし。

根岸 やっぱり文化的にはアメリカなんでしょうね。

中村 そうですね。70年代のヒッピーがビーチクルーザーで山を下ったところから始まって、途中からギアがないと登れないだろってことになって、ギアをつけるようになって、そこからどんどん進化して……とか、そういう自転車カルチャーの歴史に夢中になった頃が僕にもあったんです。Gary FisherとかJoe BreezeとかCharlie Kellyとか、昔のMTBを作ってたレジェンド的な人たちは今でも好きですし。

根岸 やっぱり青春時代に触れた文化っていうのは、その後の人生に大きな影響を与えるんだろうな。……昇くんの青春時代を過ごした場所はどこだったんですか?

中村 日野ですね。

根岸 あ、日野なんだ。僕は最近引っ越してきたばかりだから、まだあまりよくわかっていないけど、どういうところなんですか?

中村 何もないですよ。でも、僕は結構好きですね。地元のやつらもみんな好きだって言ってます。何もないから……落ち着くのかな。

根岸 昔の友達とは今でも付き合いがあるんですか?

中村 そうですね。地元のメンツはほとんどスケボーつながりです。まあ、昔の半分くらいの人数にはなっちゃったけど。

根岸 昇くん、不良的な方向にはいかなかったんですか?

中村 いってましたよ。……だから僕、やんちゃな文化も好きなんですよ。そういうバイクとか見ると、実は今でもぐっときてしまって。

根岸 いじってんなーみたいな?

中村 そうそう。いい音してんなーとかね。なんていうか、それがリアルなストリートじゃないですか。……スケボーも、そうですよね。ほんとはやっちゃだめなんだろうけど、やりやすそうな場所ってある。そういうところを見つけると、なんかうずうずしちゃうとか、ね。

根岸 はは。ルールが苦手と言ってた、昇くんのルーツが見えた気がするなあ。

中村 ちょっと恥ずかしい話ですけどね。

根岸 昇くんは、これからやりたいこととかあるんですか?

中村 特にこうしたいっていうのはそんなに。とりあえず、適当に仕事してお金稼いで、あとは趣味で遊べればって感じですね。酒もたばこもやらないんで、お金の使い道はそのくらいしかないんですよ。

根岸 昇くんの場合は仕事も趣味みたいなものだから、どんな風にでも楽しめそうだなあ。

中村 先のことはわからないですけどね。ただ、これまでずっと好きなことをやってきたから、これからも好きなことをやり続けたいとは思います。……まあ、そんなこと言ってられるのも、まわりに恵まれてきたからなんでしょうけど。

根岸 ……あ。今度、自転車を買って、カスタムしたいなーと思ったときは昇くんに相談したいな。そのレベルに到達するにはだいぶ時間がかかるかもしれないですけど……。

中村 いつでもいいですよ。気に入った自転車、見つかるといいですね。

文/根岸達朗 写真/松岡真吾

ちょうちんサイクル

Web site:http://www.chouchincycle.jp/
Twitter:chouchincycle
Facebook:chouchincycle

根岸達朗

ライター。バンド活動をしながら、20代の多くを下北沢周辺の仲間たちと過ごす。編集プロダクション勤務を経て、2012年に独立。現在はウェブ・雑誌、フリーペーパー『欲望と妄想』など、さまざまなメディアでインタビュー、エッセイを執筆している。
Twitter:onceagain74
Facebook:tatsuro.negishi

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