今宵、「スナック忍」の愛されママに会いにゆく

夕暮れ時の東大和市駅。帰宅を急ぐサラリーマンを尻目に向かったのは、40年続く老舗の「スナック忍」。この店の忍ママは、塩沢ときあるいは黒柳徹子に並ぶとも目される、大きな髪型がトレードマーク。「東大和市民であれば、店に行ったことはなくともママのことは知っている」との逸話があるほど、この街の有名人だ。

味のある看板。電話番号の「1184(イイワヨ)」とは、スナック忍の合言葉。今晩、幾度となく耳にし、口にすることになる。

大きく「しのぶ」と彫り込んである外壁が目印だ。

少しばかりの緊張を胸にドアを開けると、「いらっしゃーい」。スタッフの順子ちゃんとママの声が、カウンター越しに優しく響く。開店直後のため、まだお客さんの姿はなかったが、カウンターに腰掛けて5分も経たないうちに、常連の「殿」がやってきた。直後、同じく常連の「まきちゃん」も加わり、今宵最初の乾杯となる。

店から出勤したことがある殿(右から2番目)は、常連歴38年。まきちゃん(右)はなんと常連歴40年。開店当初からのお客さんだ。

忍ママが作る料理が、どれもこれも美味しい。一番人気は、さっくりふっくらとしたコロッケ。

その後も続々とお客さんが訪れ、お客さんがリレーのように歌をつなぎ、賑やかな宴ムードがお店全体を包み込んでいく。誰かが来店をするたびに乾杯。歌い終わったら必ず乾杯。乾杯に次ぐ乾杯だ。そして何より盛り上がる瞬間が、お客さんが曲の一節を歌い終えた時。「〇〇ちゃん、いいわよ〜!」と、ママや順子ちゃん、お客さんから歌い手に拍手喝采が贈られるのだ。これが歌う方も、声をかける方もたまらなく気持ちがよい。

ビブラートのきいた「もりちゃん」の優しい歌声に、「いいわよ〜!」と順子ちゃん。もりちゃんの調子にも弾みがつく。

店内が盛り上がる中、私の隣に腰掛けたのは「きょんきょん」。きょんきょんは、ママがお店に立てない時に、代わりに店を切り盛りしたこともある人。
「ママはお客さんが優しいって言うけど、違うのよ。私たちは、本当にママが大好きなだけなの」
この店のお客さんは、不思議なほど自慢話をしない。そして悪口や愚痴の類も言わない。常連客が来店すれば肩を叩いて迎い入れ、一見さんがくれば「よく来た」と乾杯をする。軽口にさえ愛情がこもり、互いを褒め合う。そして一緒に笑うのだ。
「大好きなこの店を、みんなで守ってきたんだよね」
きょんきょんの一言には、積み重なる思いが滲んでいた。

お酒をすすめながらも「酔いすぎないように」と同量の水を手渡してくれる、世話上手で優しいきょんきょん(右)。

カウンターの奥に目をやると、愛嬌のある笑顔を見せながら、温かく皆を見守る忍ママが。一人でいる人がいれば声をかけ、誰かが歌えば「いいわよ〜!」と背中を押して盛り上げる。「みんなが寂しくならないように」40年変わらないママの気概が、温かいムードの発信源なのだろう。

そして笑い声と歌声が、絶え間なく続いていく。

みんなで一つの歌を口ずさむ。まるで大家族の宴ようだ。

歌がひと段落。「本当にいい店だなあ」とぽつり、つぶやきが聞こえた。

永遠とも思える、至福の夜更け。お客さんとの会話に華を咲かせながら、情感のある歌声に耳を傾ける。
帰り際、ここでも面倒見の良いきょんきょんに終電を指摘される。忍ママに見送られつつ店を後にすると、外気がひんやりとするが、胸のあたりはじんと温かい。きっと酔いのせいではないだろう。脳内で美空ひばりを流しながらの帰り道。歌声と乾杯の余韻がいつまでも残っていた。

文・写真/佐藤琴音

スナック忍

東大和市南街5-85-6
西武拝島線東大和市駅徒歩5分
042-567-1184
日〜火休
19:00〜25:00

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