昭和元年創業・幻の日本最小酒屋「関田酒店」へ

「—立川の路上でおじさんが独りでやってる酒屋がある—」

そんな都市伝説的な噂をキャッチしてやってきたのは中央線立川駅。南口を抜け、モノレールを挟み左側は夜になると飲み屋や怪しいネオンでざわつきだす地帯だが、それに比べて右側はチェーン店や住宅が多いせいかひっそりと落ち着いた印象がある。
平日の午後8時、そんな南口右手の大通りから一本入った静かな路地を西立川方面に歩いていく。春とはいえ夜は風が吹くとまだ寒い。柴崎中央公園を横目に歩き、ちょうど路地が終わる突き当たりに差し掛かる頃、ぼうっと明かりの灯る一角が。占いの人?と一瞬思うが近づいてみるとテーブルの上には数本の日本酒。その奥で通りを見つめながらじっと鎮座するこの人こそが、昭和元年創業、今年で91年目を迎える日本最小酒屋「関田酒店」の店主・関田敏巳さんだ。

いる時といない時がある、との前情報があったため、半信半疑で訪れてみたが幸運なことにこの日は「営業日」だった。少しお話したい旨を伝えると関田さんは気さくに応じてくれた。

「もともとは何百種類もお酒を置いてる酒屋だったんですよ。昭和元年に創業して、祖父の代からずっとこのまちで酒屋をやっていましたので、もう小さな頃から酒屋の子でしたね」

と語る関谷さん。父から店を継ぎ、店主として長年切り盛りしていたが、体調の悪化により今までどおりの形態で店を続けることが困難になった。

「それで店の方は結局閉めちゃったんです。けど、なんとか酒屋を続けられる方法はないかと考えて、その結果がこれですね」

こうして日本最小酒屋として再開した関田酒店、現在は厳選された数種類のみを時期により入れ替えながら販売している。酒屋の子として生まれ、現在に至るまで酒屋のみを生業にしてきた関田さん、当然その博学ぶりは凄まじい。そんな関田さんが選ぶ日本酒は、普通の酒屋ではなかなかお目にかかれない希少なものが多い。「毎日勉強ですよ」と関田さんは言う。

「30年以上通ってくれてる常連さんもいるんだけど、誰もこの店を宣伝してくれないんです。『評判になると俺が買えなくなる』なんて言って」

この日並んでいたのは秋田と福島のお酒。お願いすれば試飲も可能だ。
ちなみに今、関田さんの推しは新潟県のお酒「能鷹」。一袋300円で酒粕の販売もしている。

「日本酒の細かな違いを知ってほしいんです。親父が大きくなった息子とちょっといいもの食べながらしっぽり飲むのと、友達同士でワイワイ鍋つつきながら飲むとでは、同じお酒でも気分が違いますよね。そういった時にピッタリのお酒が自分で選べると、より面白いし味わい深い。このくらい小さな店だと、お客さんとそういった話ができるので楽しいんです」

関田さんのセレクトを信頼して通う常連もいれば、物珍しさでふらりと立ち寄る一見さんも多いとのこと。圧倒的な知識に裏打ちされた選りすぐりの日本酒が、これ以上ない開けたスタイルで手から手へと売られている。


あまりに手軽にお酒が飲めてしまうこの時代、今ではお酒が置いてない飲食店を探す方が難しい。酒飲みとしてこういった現状はありがたい限りだが、酒との付き合い方が手軽になればなるほどそれは日常の地続きになり、今日もまた予定調和的酩酊・・・というのもよくある話。
一方で「いいお酒ある?」「あるよ」なんて会話がストリートで行われているこのお店。一味違ったお酒を求めて立川の路地を彷徨えば、新たな酔いに出会えるかもしれない。

文・写真/松岡 真吾

関田酒店

不定休(週2~3日開店、営業時間も日によって変動、要電話確認)
立川市柴崎町2-2-18
042-524-2960

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