日野の水路に架かる、プライベート橋採集。 

日野市は、水のまち。江戸時代から昭和にかけて浅川や多摩川の近くには、至るところに水田が広がっていた(今も一部田園風景は残っている)。その名残で、現在もまちじゅうに14もの農業用の用水路が網目状に張り巡らされている。しかも、特筆すべきは水のせせらぎをそのまま味わえる開渠が多く、散歩にぴったりなところだ。揺れる水草や、カルガモの親子、ザリガニ釣りの子供たちにも出会えたりするのだが、今回はそんな用水路にかかるちいさな橋に注目。なかでも豊田用水沿いは一軒家が多く立ち並んでいることから、自家用の「プライベート橋」(と呼んでみることにした)にたくさんお目にかかることができる。

(左)浅川。後ろに見えるのは多摩丘陵。(右)右上に伸びる水色の線が豊田用水。

まずは豊田用水の取水元、浅川付近へ。
平山橋のあたりから、豊田用水を辿っていくことにした。のどかな住宅街に流れるおだやかな水路。天気もいいし、水も透き通っていて絶好のお散歩日和。テンションがあがってくる。少し道を進むとさっそく、プライベート橋が現れた。

一番よく見かけたシンプルでオーソドックスなコンクリートタイプ。

実用性は抜群。このあたりはまだ川の近くなので用水路の幅が広いようだ。

鉄橋タイプも。

さらに進んでいくと、橋と、洗い場を発見。今でも使われていそうな実用感の感じられる佇まいが気になって、こちらにお住まいの神保さんにお話を伺ってみると、
「昔は家ごとに洗い場があって、みんなここで洗ってたんですよ。さすがに今はもう使っていないから、前の庭工事の時に私はもう壊してしまってもいいかなと思っていたんだけど、工事の職人さんが、やっぱりこれは綺麗にして残しておきましょう、と新しく作り直してくれたのよ。ものずきよね」と笑顔で話してくれた。そうは話していたけど、その心遣いが嬉しそうだった神保さん。

この先の橋の手前が、豊田用水の二つ目の取水口になっているんだよ、と教えてくれた。

途中、板塀の古い農家に出会った。明治時代には豊富な地下水を利用してビールも作られていたというこちらの山口家の黒塀は「水辺のある風景 日野50選」にも選ばれていて、豊田用水の名物。残念ながら2014年に生垣や黒壁の長屋は解体されてしまったが、日野の建築遺産として残していくべき風景のひとつだ。

さらにそのまま、水の流れに沿って前進していくと、趣のあるアーチの石橋。5人くらいは同時に渡れそう。広いお庭へ続く、堂々たる存在感。

等間隔にプライベート橋が多発するゾーン。奥に、赤い橋が。

近づいてみると、赤いレンガの丸橋!
コンパクトだけど、しっかりデザインされているこの小さなアーチに心を奪われる。
奥様に話を伺ってみると、50年前に嫁いだ時にはすでに何代か受け継いでいたらしく、代々レンガや敷いてある玉石のメンテナンスをしながら、長年大切にされてきた橋なのだそうだ。


門の中からも写真を撮らせてもらった。


つづいて、シンプルでモダンなスチールの橋。美しい曲線を渡って、マイホームへ。毎日こんな橋を通って帰れるなんていいなあ。

最後におまけで、お地蔵さま用の小さな橋を。

〈番外編〉
日野市内、豊田用水以外のプライベート橋もご紹介。

門扉がちゃんとセットされていて可愛い。

ウッドデッキ風のカジュアルな橋。

薬王寺の入り口には、擬宝珠付きの橋。

水路に沿って自転車をこいだ5月の夕暮れ。いつもの用水沿いでいつもの日常を営んでいる人々。学生さん、親子連れ、一心不乱にザリガニを釣る子供たち。その背景には、美しい水のせせらぐ音と個性豊かな小橋がある街並みがあって、ここに暮らす人は記憶のベースにこんな風景が残るのだなと、うらやましくなった。
自家用橋の装飾はもちろん、植木やお花も用水に沿うように似合うものが植えられているし、このエリアに暮らす皆さんの水辺を意識した景観へのセンスや心づかいに気持ちが温まる午後だった。

写真・文 /三森奈緒子

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