たぶん行かない街、知らない街。 ~青梅線・小作駅~

一度も降りたこともなければ、今後一生行くこともなさそうな街がある。
知らない道、知らない店、知らない人、知らない文化、
その多くとは触れ合うことも存在を知ることもなく、
平行するパラレルワールドのように各々の生活が過ぎてゆく。
と、大げさに言うまでもなくそんなことは当たり前の話だが、元々街歩きが好きなので、
そういった予備知識ゼロ・興味ゼロの街を無目的に歩いてみたいと軽く思い立ち、
一度も降りたことのない街にやってきた。

今回歩くのは青梅線、小作駅。「おざく」と読む。
新宿からは約1時間、米軍基地の街・福生と昭和レトロの街・青梅の中間地点である羽村市に属する街だ。

ボタン開閉式の青梅線車両から降りると早速「TORI」グラフィティ。若干不安が募る。
とりあえず東口から散策してみることにする。

駅前は何かは分からないがガンガン工事が行われていた。駅を出て5秒で直結の居酒屋があるのが心強いような怪しいような、よくわからない。
地上に降りて歩いてみるが、活気があるとは少し言い難い。平日の昼間、天気が曇っているのも良くないのかもしれない。ぐるりと駅前周辺を散策してみる。

まずどうしても避けては通れずに抱く印象として、「夜の店」が多い。それもかなり力強く、多い。古びたスナック、赤提灯などは青梅線どの街にもある。だが小作周辺のソレは、明らかな歓楽街というか、ギラついた粗い北関東感というか、現役で機能しているオーラが凄い。歩いても歩いても、え、まだあるの?といった感覚で昼間は灯りを落としたネオン看板が路地に乱立し続けている。

後ほど調べてみると、この小作駅と隣の羽村駅を含むこの一帯は様々な工場が密集し、そこで働く人々が暮らす巨大な「西東京工業団地」がある。つまり出稼ぎの外国人を含む労働者の街であり、そのような所以もあり男の歓楽街が形成されていったようだ。多摩の歓楽街といえば八王子や立川南口などを想像する人が多いと思うが、青梅線にもこのような文化圏があることはあまり知られてないのではないだろうか。福生の赤線ゾーンにも似た空気感を感じたので、血脈としては隣接する青梅市より福生市の方が濃いのかもしれない。

そんな若干ダウナーな街のムードの中、「街の老舗オーラ」を優しく放っている和菓子屋を発見したので入店してみる。奥から優しそうなお父さんがいらっしゃい、と出てきてくれたので、少しだけ話をする。このお店は開業40年ほど、近所の小学校の子どもたちに対してお菓子の料理教室も開いているらしく、地域に根ざした商売を長くされているらしい。

和菓子屋のお父さんに、
「何かこの辺で有名だったり、見ておくといいものってあります?」
と訊くと、
「え〜…はは、なんだろう、え〜…」
と窮した後、
「あ、井戸。井戸があるよ、駅の、コンビニの横」
駅のコンビニの横?通った気がするけど、そんなのあったか…?と思いつつ、
ありがとうございます、と店を出る。
買ったウサギマンジュウを食べながら駅前まで戻ってみるが、なかなか件の井戸は見つけられず、和菓子屋のお父さんの若かりし頃の思い出の井戸の話だったのかな…?なんてことを考えていたら、ローソンの横に唐突に井戸を見つけた。駅を出た際に横を通ったはずだが、全く気がつかなかった。

懐古の井戸、というらしく明治27年に掘られたようだ。井戸はガッチリ蓋をされており、安全性の問題なんだろうが、中を覗くことはできない。これは見落とすよなぁ、と思いつつ今度は西口方面へ向かってみる。

西口に出るとまだ夕方前だが、地元の人々であろうか、酒宴が行われていた。アルコールには寛容な街のようである。西口は東口に比べ、閑散とした住宅街といった様子、街のメインはやはり東口なのだろうなと思いながらこちらも周辺を歩いてみる。

少し歩いた先にグリーントリム公園というアスレチックのある緑地があったが、子どもたちの姿はなかった。タイミングが悪かったのかもしれない。
駅に戻り、そのまま青梅線で東京行きの電車に乗った。
驚くような出会いも人生観が変わる発見も特になかったが、うん、なるほど、といった感じの温度の低い充実感のようなものはあった。知ってる街が一つ増える、というのは特に今後の用途があるわけではないが、持っておいて損はない知識と経験のはずである。
次は、ギラリと表情を変えるのであろう夜の小作も訪れてみたいとも思うが、一人では少し怖い気もする。

文・写真/松岡真吾

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