ミニ四駆の聖地「えのもと玩具店」の勝負師たち

訪ねたのは、高尾駅から徒歩5分ほどにある「ミニ四駆専門店・えのもと玩具店」。“聖地”とも呼ばれるほど、遠方からもお客さんが訪れる有名店だ。店内には多種多様な部品があるのはもちろん、奥には常設のサーキットがあり、店員さんに一声かければ誰でもミニ四駆を走らせることができる。ミニ四駆好きには、たまらないお店。

今回は、初心者・編集部が初めてミニ四駆を走らせる模様をレポートする。ミニ四駆の強者たちが集まる「えのもと」に、いざ!

お店の前にたどり着くと、店前で榎本さんとお客さんがお茶を飲みながら談笑している。

「いらっしゃい」

榎本さんが、笑顔とともに早速声をかけてくれる。榎本さんは、営業時間中はこうして入口の椅子に腰掛けて、道ゆく人やお客さんに声をかけている。下校時間には、地域の子どもたちが手をふりながら店前を通り過ぎていく光景も。お客さんの中には榎本さんに会うために来る、という人も多いらしい。榎本さんの温かいお人柄も、このお店の大きな魅力の一つだ。

約20年前、模型などを中心に揃えたおもちゃ屋としてスタートした「えのもとサーキット」。子どもたちが読めるようにと「えのもと」はひらがな。

店内奥にあるサーキットの入口。ミニ四駆のコースをあしらったアーチが可愛らしい。

直線やカーブ、軽めのジャンプ台を網羅した常設コース。

中にはすでに黙々とミニ四駆をいじる、二人のお客さんが。…と、片方の男性がおもむろに手元のミニ四駆のモーターをオンに。ぎゅうううん…と勢いの良い音が響く。おもむろにミニ四駆を走らせはじめた。

弾丸のごとくサーキットを駆け抜けるミニ四駆。もはや目で追うことができず、どこをどう走っているのか分からない。走っていたのは10秒あまりだろうか。気がつけばモーター音が止み、いつも間にか男性の手元にミニ四駆が戻っている。
「早いですね!」
思わず話しかけると、まだまだ、というように軽く手を振って応える男性・大神田さん。大神田さんは、ミニ四駆歴6年ほど。子どもと一緒にはじめたら、すっかりハマってしまったそうだ。

大神田さんのミニ四駆。特にタイヤの細さにこだわっているとのこと。既存の部品を手作業で2mm幅まで削るという。

「息子はミニ四駆を卒業しちゃいましたけど(笑)ミニ四駆をいじるのは本当に細かい作業だけど、大人も楽しめますね。中には70代の人も。ここに来ると刺激をもらえるんです」
持ってごらん、と大神田さんのマシンを手渡していただく。
「これはね、プラスチックのボディじゃなくてポリカボディというのをを使っていて。すごく軽いでしょ? だから車体が軽くなって、速く走れるようになるんだ」

左がプラスチックボディ、右がポリカボディ。ポリカボディは風に飛ばされそうなほど軽い。

でも車体が軽くなると、その分もろくなるのでは…?

「そうなんだよ! 車体が軽いと直線は速く走れるけど、曲線とかジャンプ台があると吹っ飛ばされやすくなるんだよ。だからね、バンパーというのをつけて、車体に”しなり”をつけたりね…」

アツいミニ四駆談義のはじまりである。しばらく大神田さんの話に耳を傾けていると、ますます奥深いミニ四駆の世界に引き込まれていく…

ミニ四駆ファンは、細かなパーツを自らコーディネートし、ときに手を加え、組み立てて渾身の1台を完成させていくのだ。手塩にかけた1台には、作り手の思いがこもっている。ミニ四駆を作っていく工程も大きな醍醐味のようだ。

そしてえのもと玩具店では、月2回「えのもとカップ」を開催。店前には毎回異なるコースがセットされ、子どもも大人も関係なく競い合うのだとか。「ここはミニ四駆だけじゃない、人との付き合いかたを学ぶ場所でもあるんだ」とは榎本さんの言葉。

ミニ四駆は個人戦だが、一つのものにかける情熱は皆同じ。このお店では、お客さんたちが老若男女、緩やかにコミュニケーションをとりながらミニ四駆を心から楽しんでいるようだ。

以前、店長・榎本さんから「走らせにおいで」といただいた1台。

サーキットで出会った方から、ミニ四駆の醍醐味を教えてもらった編集部・佐藤。改めて「ミニ四駆を走らせたい」という思いが、ふつふつと湧き上がる。おずおずと鞄から「しろくまっこ とばなれ号」を取り出せば、いよいよ、憧れのえのもとサーキットで走らせる時。

ぎゅうううん…とエンジン音を轟かせ、いざ、コースイン! そしてスタート!
勢いよく走り出す、しろくまっこ。1周、2周、3周…とコースアウトなく走り抜け、難なくゴール。丁寧な走りを見せてくれた。

初ランのタイムは3周で約20秒。ちなみに、お客さんたちのベストタイムは約8秒。その差は2倍をゆうに超える。

部屋にはタイムを記録できるホワイトボードが。記録を更新すると書き込んでいくようだ。

念願かなったという達成感よりも、あまりのタイム差に驚き、呆然と立ち尽くしていると…「奥も見せてあげて」と榎本さんの声。奥という言葉に首をかしげながら店員・池上さんに導かれて歩いて行くと、そこにはなんと秘密サーキットが!

ここは店主の榎本さんに選ばれた人だけがミニ四駆を走らせることができる特別な場所。速さを追求するのではなく。主にタミヤの公式大会向けに本格的な練習を積みたい人向けだそうだ。

「タミヤ」とは、ミニ四駆の生みの親でもある模型のトップブランド。毎年、全国各地で「ミニ四駆グランプリ」を開催しており、多くのファンがこれに参加している。

ミニ四駆も道路(コース)の状態によって走りが大きく変わる。こちらのコースは、大会に使われるのと同じものを特注してセットしたものだ。少しざらついていてブレーキがかかりやすい素材。

そしてコースもさることながら、目を引くのはこちらの榎本さんパネル。ほぼ等身大である。

東京大会への参加を予定している池上さん。
「ミニ四駆は経験が全てじゃないんです。はじめたばっかりの子が、ぽんっと優勝することもある。運なのかな。それが面白い」
速さだけ追求するのでは大会では勝てないんですよ、と池上さん渾身のマシンを見せていただいた。

赤いボックスはまさしくピット。瞬時に修理対応できるように様々な工具や部品がストックされている。

「全体のバランスが大事なんですよね。車体の軽さと、カーブで飛ばされないように程度な重さも必要。一度に何台か持っている人もいますけど、僕は今この1台だけなんです。こいつをベースに、コースの違いに対応していく方が僕はやりやすいので」
そう言って見せてくれたのは、鮮やかな配色が目を引く1台。

発色の良いカラーコーディネートにも並々ならぬこだわりが。常日頃からトラックなどの配色をリサーチしているそうだ。ボディはスプレーを使って自分で色をつける。

後でをここを直します、そう言って見せてくれたのは、こちらの傾いた部品。…極めて細かい。

左の部品が少し右に傾いているのが分かるだろうか。走ると、必然とどこかに歪みが生じるもの。コンディションを保つためのメンテナンスも大事という。

大会には、細かな規定が多々あり(ボディの1/3を残す、タイヤ径は大きくて35径まで、など)、その中で創意工夫をしていくのが、面白いところ。
「部品が全く一緒でも、作る人によって出来上がりが全然違んです。だからミニ四駆には二つと同じものはないんです。それがつくっても飽きない、奥が深い魅力ですね」

池上さんも愛用の、えのもと玩具店・オリジナル工具も豊富なラインナップ。

底知れぬミニ四駆の世界は、とても面白い。その理由はミニ四駆が作る人の”手しごと”であること。えものと玩具店には、ミニ四駆にかける人たちの、ひたむきで尽きない情熱が溢れていた。

文・写真/佐藤 琴音

ミニ四駆専門店・えのもと玩具店

11:00~19:00
無休
八王子市高尾町1529-3榎本ビル1F
JR高尾駅徒歩7分
042-664-3249

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