“小川”の地名にせせらぐ、小さな草舟。植物の本屋 草舟あんとす号


今年4月にオープンしたちいさな新刊書店、「植物の本屋 草舟あんとす号」。そのお店の存在を知ったのは最近のこと。それからというもの気になってしょうがなくて、2日後には取材を申し込んでいました。本屋さんを開くということに個人的に興味があるのも相まって、植物専門の本屋さんって?そして、物語がはじまりそうなあの建物とはどんな風に出会ったんだろう?などなど。店主の宮岡絵里さんに、気になること、いろいろと聞いてみました。踏み出せそうでふみだせない、その一歩をえいっと踏み出して想いを叶えたお話です。

お店は、3軒の小商いが連なる一帯にある。右から本屋さん、お菓子屋さん、お花屋さんの順に並んでいます。

—見たことないくらい素敵な物件ですね。窓枠も、ステンドグラスも、ウッドデッキも。夢のような場所です。物件との出会いはどんな形だったんですか?

「はい、本当に素敵な建物ですよね。もともと、今のスペースは苗屋さんで、その隣が現在も営業している『コトリ花店』。こちらで定期的に開かれていたイベントに出店している時に、出店者さんたちに植物だけの本屋さんをいつかやってみたい、って語ったりしていたことがきっかけで、去年の9月物件に空きが出ることになった時にコトリ花店さんから連絡をいただいたんです」

—見事にご縁とタイミングが繋がったんですね。

「でも、お声をかけていただいた時、実際にはお金がこれぐらい貯まった!とか自分で今、店を開こうと準備したタイミングではなかったので、え、今このタイミングで!と少し不安を覚えました。でもこういうお話が来たってことは、きっと今なんだ、という感じで1週間考えて開店を決めて。隣の店舗(コナフェ、コトリ花店)にも恵まれましたし、非常に幸運で。こんな条件は自分で探してもなかなか出会えないぞって思って」


—タイミングって得てして急に訪れるものですよね。ところで、なぜ植物だけの書店にしようと思ったのですか? ジャンルを定めることになったなにかきっかけや想いを知りたいです。

「きっかけは『秘密の花園』という本です。30代になって初めて読んで。読み終わった時に、こういう世界観の植物専門書店を開きたい!と燃え上がって。書店の植物コーナーには園芸書とか図鑑が多いですけど、そこに美しい花園が出てくる物語『秘密の花園』も一緒に並べてあるような、そんな本屋を開きたいと。読み終わってすぐに『本屋 開く方法』と検索したんです。それが7年前くらい」

—すごい情熱的ですね。

「ははは。でもいろいろ調べていくうちに、私は最初から古本の頭はなくて新刊書店と決めていたから、取次と契約することや、保証金、事業計画書とか結構ハードルが高くて、簡単にはできない世界だなって。その時、雑司が谷のジャングルブックさんのブログで開業にいくらかかるかを親切に書いてくれてたんですよ、それを読んで、またこんなにかかるんだ!って気が遠くなって。けど、ことあるごとにいろんな人に本屋をやりたいと話すようにはしてましたね」


手に取りやすいエッセイや絵本から、植物療法の専門書までずらりと並ぶ。取扱書籍はだんだん増やしているところ。

「それからも、自分で売りたいものを売るっていう経験がしたくて一箱古本市に出てみたり、西荻窪のナワ・プラサードで書店スタッフとして働いたりしました。ナワ・プラサードでは本の仕入れやお金のやり取りも含めて、このやり方でいいんだ、と少しホッとしたんです。いい意味でゆるやかというか。最初に大手書店で働いていたらめげてたかもしれないです(笑)」

—お店のロゴも可愛いです。店名に“号”がついてますよね。屋号としては結構珍しいと思うのですが。

「ありがとうございます。店名は英語の名前とかシンプルな名前も考えていたんですけど、ギリギリまで悩んで、その頃ちょうど荻窪の書店、タイトルさんの著書、『本屋、はじめました』が出た頃で、読んでみたら読後感として、なんとなく大きな海に乗り出す航海日誌のようなイメージが浮かんだんです。本屋という舟で大きな海に出発して、毎日毎日、航海日誌を書いているって、感じがして。その時にはもうオープン直前だったので、私のお店は、草の舟かな、って気がしたんですよ。書店として、同じ舟の仲間としてはまだまだこれからだっていう意味も込めて。しかもここが “小川” という地名だったので、 “舟” という言葉も相性がいいかなと。そこに、植物療法の活動の屋号で使っていたひらがなの『あんとす堂』からギリシャ語で花という意味のあんとすを。草と花が両方入っていいかなと思って『植物の本屋 草舟あんとす号』と名付けました」

—店名の由来にも、本との出会いが生きていて、かつ、ちゃんとストーリーがあることに驚きました。そして、話は変わりますが、植物療法の活動もされているんですね。

「そうなんです。植物療法の仕事もしているので、そういったことをちゃんと学びたい人にとって役立つ本、植物図鑑やヨーロッパの昔の植物の本とか手に入りにくい本も直取引で置いています。あと植物の種も。コトリ花店さんの帰りに立ち寄ってくれる方もいるので嬉しいです。1軒だけぽつんとお店を開くとなかなか大変だと思うけど、3軒連なっているので、お互いにいい相互作用があって、本当にありがたいですね」


こちらの店舗に入らないかと声をかけてもらったのは昨年の9月のこと。オープンまでの半年、オープンしてからの半年。この1年、怒涛の日々を駆け抜けてきた宮岡さん。お会いして思ったことは、岐路に立った時、いつも自分の直感でイメージしてズバッと決断していける方だということ。そしてその傍らにはいつも本の存在がありました。
人と話すのが好きという宮岡さん。生まれたばかりの小さな本屋さんから人の輪もどんどん広がっています。1冊の本に出会ったことから浮かんだイメージは、7年の時を経て、一つひとつ、確実にかたちになっています。

オープン前から憧れていたレジ用の竹の電卓。

取材・文/三森奈緒子

植物の本屋 草舟あんとす号

小平市小川町2-2051
080-1330-5452
水、木曜休み
11:00〜19:00(秋冬18:00)

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