国立市谷保アングラカルチャーの砦、かけこみ亭の「ぼけまるさん」

子連れでゆっくり できる店 女性だけでも 行ける店
青年カップル 中年カップル ノンベーのおっさん 独り者
うれしい時に かなしい時に 楽しい時に くるしい時に
かけこみたい時に いらっしゃい
そんなあなたの かけこみ亭
(かけこみ亭HPより)

南武線谷保駅すぐ、飲み屋や中華屋がポツリポツリと立ち並ぶ路地を歩いていくと小さな白い置き看板が出現する。「かけこみ亭」と書かれたその看板はビルの入り口さらに奥の地下を指しており、初見で入るには中々の度胸が試される。入り口には「0円均一」の書かれた赤い張り紙の下、雑然とテイクフリーの古本や雑貨(?)が地べたに陳列されており、さらに階段を降りると等身大のマリア像が唐突に現れ、ギョッとする。これらをくぐり抜け、扉を開けた先が文教地区国立市、屈指のアンダーグラウンドスペース「かけこみ亭」であり、その空間を一人で切り盛りするのが店主“ぼけまるさん”だ。

この店の形態を一言で表すのは難しい。基本は「飲み屋」だが、英会話教室やトークイベント、上映会に写真展、弾き語りから海外ノイズバンドのライブまで、お客さんの要望を基本的に全て受け入れてしまうこのスペース。自身もミュージシャンである店長の溝田幸さん、通称“ぼけまるさん”は「大人が変われば子供も変わる」をモットーに、大人が自由にたむろ出来る憩いの場を作るため100人以上の仲間の出資・協力のもと、27年前にこのお店を作り上げた。

料理はぼけまるさんが自ら作る。もともと生協に勤めていたこともあり、無農薬・低農薬を意識した家庭的な料理を提供している。ライブがある日にはセッティングやPAも自身で行い、当然一人では手が回らないので、飲み物は「セルフサービス」、冷蔵庫から自分で取ってきて、お金はチャリンと専用の「会計缶」に入れる。貸し切ってイベントがしたかったら入り口に掛かっているカレンダーに書き込んで声をかけてくれればそれでOKという。ノルマや使用料はもちろん、とらない。
敷居が低いどころではなく敷居という概念が無いこのお店だが、このお店とぼけまるさんのキャラクターに惹かれる人は多い。

メンバーが多摩エリアにゆかりがあるSAKEROCK(2015年解散)は若かりし頃この店で練習を重ね、ファーストアルバムはこの店で泊まり込んでレコーディングしたという。ぼけまるさんは解散ライブにもメンバーから特別招待された。今やフォークの重鎮である三上寛も、海外の雑誌で特集を受ける際、撮影場所にこの店を指定してカメラマンを連れてやってきたという。

「あなた次第で好きに使ってください、ってスタイルですよ」と話すぼけまるさんは昼の介助仕事を兼業することで、ほぼ無償の形でこのかけこみ亭を維持している。3.11の震災の日には電車が停まって谷保駅前で帰宅できずにいた人々も招き入れ、泊まらせた。店の経営を支えるため「かけこみ亭救援会」なる有志による支援団体も発足し、常連客や古くからの友人の力も借りながら今もなお、万人を受け入れるというスタンスを崩さず運営している。
「かけこみ亭ができるまで」と題された分厚いアルバムには、この店がそんな友人たちとともに手づくりで出来上がっていく様子や、過去のイベントや宴会の写真が大量に、大事に収められている。
「俺がトンカチ持ってヒーヒー言いながらこの店を作ってる後ろで駆け回ってたガキがもうおっさんになっちゃったからなぁ。笑っちゃうよ」

このかけこみ亭、海外のゲストハウスガイドブックのようなものにも何故か掲載されてしまっているらしく、流れ流れてやってくる外人バックパッカーやアーティストも多い。
「別に泊まれるなんて俺は一言も言ってないんだけど…来ちゃったもんはしょうがねぇから泊めるけどさ」と苦笑するぼけまるさん。そんな人々のために、長椅子の中にはギッシリと毛布が詰まっている。
多種多様な人種と職業の人々が入り乱れるこの店は、至る所に歴代利用者による絵画やイラスト、写真、メッセージが壁を覆っている。どれもエモーショナルかつこの店への愛が溢れるもので、店内には常に時代を超えた濃度の高いエネルギーが充満しているようだった。取材した日は岐阜の飛騨高山からやってきたという弾き語りミュージシャンのライブ、もちろんこの日はかけこみ亭に宿泊とのことだった。

やりたいことがあったら何でもやらせる、お腹が空いているなら料理を出す、酔いたければ酒を出す、寝たかったら寝させる…ここまで大人のワガママが通ってしまう店が今の東京にいくつあるだろうか。
「また飲みに来てよ」と帰り際に笑っていたぼけまるさん、おそらく自分の体が動く限りこの店を続けるのだろう。
行き場に窮したすべての人が無償でかけ込める場所として、今日もこの店は地下に優しく怪しい明かりを灯している。

文・写真/松岡 真吾

かけこみ亭

飲み屋営業は基本18:00〜(イベントがある日は異なる、要HP確認)
不定休
国立市富士見台1丁目17-12 S&SビルB1F
JR南武線谷保駅徒歩3分
042-574-3602
www.asahi-net.or.jp/~yi7k-ttn/kakekomi/

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