吉祥寺の片隅。古時計とともに時を刻む惣菜屋。

吉祥寺の雑踏を避けるようにして辿りついたのは、井の頭通りの1本北側、個人商店が立ち並ぶ細い道。そこで、ひと際目をひく惣菜店を発見しました。

まるで、もっさりとした緑の帽子をかぶっているよう。さらに気になることには、店内の壁には年季の入った振り子時計がずらり。
お店の前まで行くと、ばちっとご主人と目が合いました。

「はい、いらっしゃい。ここにはおにぎり。惣菜もあるよ。弁当はちょっと時間がかかるけど。なんだい、まだ決まってないのかい。奥にもあるからゆっくり見ていきな」

弾丸のごとく言葉を続けたかと思うと、親指でグッと店内奥を指差すご主人。その勢いに気圧されて、自分の口から「はい!」と威勢の良い返事が飛び出します。

店の奥には無料の麦茶が。弁当や惣菜を買った際に、ちょっと休憩できるようになっています。

惣菜を吟味しながら、気になった振り子時計のことを聞いてみました。

「最初は集めようとしていたんだけど、だんだん要らなくなったからって譲ってくれる人が増えて。いつの間にか増殖したんだ」

「亡くなった人のものだったり、今はない家にあったものがここにあるって、ちょっと不思議だよね。今でもさ、譲ってくれた人が『うちの時計、まだ動いてる?』って店を覗いていくんだよ」

店内では、コチコチ、カチカチ、コトコト…振り子たちがそれぞれのペースで時を刻む音が聞こえます。いろんな時間に囲まれているような…とても不思議な感覚です。

振り子時計の側面にあった、摺り切れた文字。かつての持ち主の名残を感じます。

振り子たちが時を刻むタイミングが微妙にずれているので、表示される時間もまちまち。いったいどれが正確な時間なんでしょうか。

「それはよく聞かれる(笑)。だからそこに、一つデジダル時計があるわけ」

店内の入り口に置かれた、デジタル時計。振り子時計に囲まれ、少し肩身が狭そう、でしょうか。

そもそも、機械仕掛けのものが好きだというご主人。実はアナログカメラのコレクターでもあるそうです。

振り子時計の中に、ちゃっかりカメラが!

希少な「Made in Occupied Japan」の文字が残されている一品。展示会に出されたものと同品というのが、誇らしいポイント。

「今や、なんでもデジタルでしょ。どんどん性能が良くなってる。でもさ…『でもさ』なんだよね、その気持ちが肝なんだよ」

わかるかな、と微笑むご主人。利便性や高性能といった世間の評価とは違うもの価値、わかるような気がします。

もとは米屋だったこちらの店は、約32年前に惣菜店としてオープン。魚屋や八百屋、豆腐屋が集まる「街の台所」だった商店街も、今ではチェーン店やコンビニが増え、大分雰囲気が変わったそうです。

「外の人が憧れているような吉祥寺は、わからない。土着民だから(笑)。雰囲気は変わったけど、昔ながらのつながりが残っているとは思うね」

お客さんは、ビジネスマン、学生、家族連れ、昔からの常連さんなど老若男女。道すがら「こんにちは!」と挨拶していく人も多数。

最近は外国の方も。「ドイツ語はまあ話せる」ご主人。南部訛りがあるそうですが、日本語と変わらない弾丸トークで接客していました。

当たり前ですが、注文はご主人に口頭で。そのため否が応にも、ご主人との会話が生まれます。「この店は本物の昭和レトロ」とご主人が笑うように、生きたレトロ、とでも言うでしょうか。ご主人との他愛ない会話が楽しい。そして懐かしい。

つまりは、このお店にもどこかアナログ。
きんぴらとひじきを購入しながら、どうしようもなくこの店にひかれる訳に気がつきました。

たまにこうしてネジを巻いてあげるそうです。

写真・文/佐藤琴音

二丁目SOUZAI

武蔵野市吉祥寺南町2-7-5
0422-46-3410
日祝休
8:30〜20:00
JR中央線・京王井の頭線吉祥寺駅徒歩4分

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