幸せの黄色い看板。昭島の街角ベーカリーを訪ねる。

昭島市の街角で信号待ちをしていると目に付いた「富士屋ベーカリー」の黄色い看板。古さではなく“味”を感じる、その佇まい。これは良い店に違いないと、心のアンテナがビビビと反応。

ガラス張りのため外からでも中の様子が分かる。ショーケースには20種類はあるだろうか、多種多様なパンたち。そしてカウンター向こうには、色鮮やかなエプロンと帽子を身に付けた奥さまが。その華やかな姿に思わず足を止め見入ってしまうと、奥さまがこちらをちらり。ビッグスマイルを向けてくれる。嬉しくなって入店。

「いらっしゃいませ!」
奥さまが早速、声をかけてくれる。パンを選びつつ、気になったコスチュームについて聞いてみると、なんとすべて手作りという。しかも季節や気分に合わせて毎日変えているらしい(ご自宅には20種以上あるとか)。

「子どもが大好きなんです。店の前が通学路になっているから、幼稚園生から小学生、中学生まで、子どもたちがたくさん通るの。通学中には立ち寄れないけど、遊びついでに来てくれる子が多いんです」

残暑の厳しい8月下旬の本日。夏の海とひまわりを彷彿とさせる青×黄色のコーディネートが鮮やか。

子どもたちから「おばちゃん」と親しまれている奥さま。子どもたちを楽しませたいと、歌いながら接客することもあるそうだ(聴いてみたい)。よちよち歩きだった子がランドセルを背負うようになったり、大きくなってから自分の子どもを連れてきてくれたりと、子どもたちの成長を目の当たりにするのが大きな喜びなのだそう。

そんな優しい奥さま、朗らかさだけでなく、心配りも天下一品。建物が古くなっても明るい雰囲気にしたいからと壁や天井を自ら塗り直したり、子ども連れのお母さんがゆっくりパンを選べるようにとキッズスペースをつくったり、お年寄りのため杖置きを設置したりと、店の随所に奥さまの優しさが表れている。

杖置きを2箇所に発見。手づくり感が、また良い。

奥さまと常連のお客さまとの軽快な会話を聞いていると、奥の焼き場からやってきたのは、ご主人・斎藤憲一さん。焼きたての食パンを店頭へ運ぶ、しゃんとした背中が格好いい。

大学では経営学を学んだという憲一さん。公務員への就職が決まっていたにもかかわらず、昭和53年、かつては牛乳屋だった実家の「富士屋」を継いだそうだ。
「継いで2年くらい経った頃かな、ちょうど大型スーパーができはじめたときで。牛乳屋の経営が先細りだと思ったんだよね。当時、牛乳屋からベーカリーをはじめる人が結構いたから、僕もやってみようと思ったんだよ」

奥様曰く「真面目で、根っからの努力家」という憲一さん。ものづくりの経験はなかったが、修業を経て、試行錯誤を繰り返しながら40年。「おいしいパンを届ける」、その思い一筋で厨房に立ってきたそうだ。

「仕事が辛いと思ったことは一度もないんですよ」と憲一さん。

憲一さんのつくるパンは市内の保育園の給食にもなっており、近所の子どもたちにとっても馴染み深い味。その一番のこだわりは生地。
「コシがあって、ちゃんと小麦の味がする。そんな昔ながらの味が、この店の味なんです」
パン生地は温度や湿度など、様々な環境条件によって出来が左右されるが、憲一さん流の秘訣は「生地と会話すること」(!)。不思議なことに自分の調子が生地に伝わるような気がする、らしい。

「つくりながら、心の中でなだめてみたり、せっついてみたりするんですよ(笑)。パンは生きものなので思い通りにつくるのは難しいですが、それがやりがいです。毎日があたらしい」

開店当初からつくり続けている「バタークリーム」130円。

開店当初からのベストセラー「バタークリーム」をいただくと、懐かしく優しい味が口いっぱいに広がる。斎藤さんご夫婦の優しさがこもっているようで、思わず、にんまり。この幸福感。富士屋ベーカリーからの、とびきりの贈り物をもらった気がした。

写真・文/佐藤琴音

富士屋ベーカリー

10:00〜19:00
昭島市上川原町2-21-1
042-541-5104

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