歌え!騒げ!アキルノ歌声ブロックパーティ

某雑誌で「多摩の喫茶店」を特集することになった。
どの街にもひとつは老舗だったり人気だったり、誰でも知ってる喫茶店があるわけで、そういう場所に集う人々の姿や店主のスタンスでその街の風土や特徴を見つめていこうと、大まかに言うとそのようなテーマである。まず、武蔵野から西多摩までありとあらゆるジャンルの喫茶店やカフェをリサーチで洗い出していくわけだが大抵の有名どころはこのご時世、ネットだけで大体の雰囲気は分かってしまう。もちろん、訪れてみて印象が覆ることや想像が上回ることもあるのだが、すでにネットなり別記事なりで既出のものというのはイマイチ乗り切れないしどうも生々しさが物足りない。

もっとその街に住んでる人間味が溢れ匂い立つ店はないかとリサーチをかけたところ『歌声喫茶』というジャンルに行き着いた。その名の通り、カラオケと喫茶店が合わさった、基本的にご高齢の方々が集う形態の喫茶店である。存在は知っているが行ったことはない。調べてみるとどの街にも点々とあるようだが、やはりあまりヤングなカルチャーではないようなので詳細な情報やレビューはネット上にも少ない。多摩地域に詳しい知人や編集部員にもリサーチをかけていくと実際に入店したことのあるという者がおり、いわく「なんか中がスゴい」という気になるコメントが添えられた歌声喫茶、あきる野市の「WOOD MAN」に訪れてみることにした。

こういうジモト性が強い(であろう)店に行くときはアポなしの方がうまくいく場合が多いという経験則の元、事前連絡はせずに平日の午後3時ごろ五日市線秋川駅に到着。大通りに沿って5分ほど歩いていくと見落としようがない存在感のウッディーが過ぎる外観が見えてくる。件の店「WOOD MAN」だ。玄関の看板にはそこそこでかい丸太に立体木製タイポの「昼カラオケ」の文言がファンキーに踊る。建物すべてが木造で窓もないため、中の様子は外からは一切伺えない。とりあえず店主の人がいればご挨拶くらいは…という心持ちでギイっとドアを開けると、パーティはすでに始まっていた。

ブロックパーティという言葉がある。ひとつの地域(街区)の住民たちが集い、主に音楽を演奏したり踊ったりして祝祭の時間を共有するという、1970年代にアメリカで生まれたコミュニティカルチャーだ。このWOOD MANで感じたのはまさに「ここがあきる野のブロックパーティ…」という印象だった。この日は7人ほどの紳士淑女がパーティに参加しており、DAMの予約画面には常に曲が10曲ほど待機する状況の中一瞬たりとも空白なくマイクリレーが行われていた。リレーと言っても通常のカラオケのように無線マイクを渡していくのではなく、木製の特製円形ステージで順番にスタンディング・ボーカルスタイルである。皆、この店は常連のようで各々手帳の「十八番リスト」を睨みながら流れと空気を読みつつ選曲していく様子はDJにも通ずる気がしないでもない。自分が歌う時以外は優雅にコーヒーを飲みつつチルアウト…というのは来る前のこちらの勝手な願望で、皆さんもっぱら梅干しの入った水割りである。なぜか汁粉をすすっている人もいる。とはいえ各々が自己満足で歌うかというとそうでもなく、自分以外の方々が歌う時は「イエッ!」「ヨウッ!」と合いの手を入れたり、チャインッ!チャインッ!っと水割りグラスをマドラーで叩いてリズムをとったり軽快にマラカスを振るお爺ちゃんがいたりと互いが互いを盛り上げ合うピースなバイブスで満たされていた。

店主の木住野さん(そもそも名前のウッディーさがスゴい)は製木業を営む大工さん、この店はギャラリーの役割もあるという話を聞いてようやっと店内の造形の凝りように合点がいった。同じくカラオケの好きな奥様と二人でこのような歌声喫茶の場を設け、地域の人々にも開けた場にしているという。昼と夜の部で分かれており昼は1,000円、夜は1,500円でワンドリンクつき5時間歌い放題、見てわかる通りの地域の憩いの場となっている…というような話を木住野さんに伺っていると、新顔の若者が珍しいのかだんだんと参加者のお父さん方々が接近、気づけば同じテーブルを囲んで水割り&リッツパーティの一員となっていた。赤ら顔のお父さん方々と談笑していると流れ的にやはりというか「兄ちゃんも歌え!」「歌えや!」「歌ってくれ!頼むわ!」となり何故か木製ステージで『お嫁にこないか』を歌っている自分がいた。酒場が好きな方なのでスナックなんかで歌うことも今まであったはあったが、流石にステージの上でソロという経験は人生初、変な種類の緊張はあったが聞き手がノリノリなことにも助けられ、歌唱後は確かにちょっとした気持ち良さもあった。

ここに集う方々は皆近隣住民のようだが全員が全員友だちというわけではなく、お互い顔は見知ってるけど本名は知らないというような、そんな距離感のようだった。とても仲良さそうにしてるお父さん同士も知り合ったのは3年くらい前だという。「元々みんな幼馴染で…」とか「古い付き合いで…」とか「地域の繋がり…」とか、そういうエピソードはこの店に一切ない。楽しいから集まってるだけである。でも、これこそがパーティの、遊びの、根源というか原風景ではないだろうか。多分ここの人たちは「ひとりよりかみんなの方が歌っていて気持ち良い」ぐらいの温度感を緩やかに共有しているだけなのだろう。
すいません、仕事がまだあるので一足先に帰ります、と告げると皆さん心の底から残念そうな顔をしてくれ、「絶対また遊びに来いよな!」と一人ひとり握手して別れた。五日市線に揺られる帰り道、あのパーティの方々と自分が同じ年齢になった時、住んでる街にああいう場や店があったら楽しいよなぁなんてことを考えた。「喫茶店ではなかったな…」とも思ったが、それもまた良しである。

文・写真/松岡真吾

WOOD MAN

11:00〜22:00/月休/あきる野市下代継96/JR五日市線秋川駅徒歩7分/042-518-2722

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