調布の伝統工芸「赤駒」の守り女将

「あめや」といえば、調布は深大寺の膝元にあるお休み処。旅情ある通りに面し、シックな看板の下には、食べ歩きにぴったりのお菓子がずらりと並ぶ。深大寺散策の折、「あめやの味」を求めてついつい足が向いてしまうという人も。創業54年、長年愛される老舗だ。

こちらの名物は、女将・西村久枝さんが25年前に考案した「そばぱん」。深大寺といえば、蕎麦が有名。お客さんたちは蕎麦が食べたかろうと、パンの生地に蕎麦を練り込んだ逸品だ。

そばぱん(1個300円)。中でも人気はあんこ(左)と高菜(右)。具がぎっちりなのが嬉しい。

草餅(1個200円)も、根強い人気商品。

そしてもう一つ、藁で編まれた「赤駒」お守りも、あめやの看板商品。松本清張『波の塔』をはじめ、近年ではNHK朝ドラ『ゲゲゲの女房』で取り上げられたことで話題に。見覚えのある人も多いだろうが、この赤駒を作れるのが、唯一あめやの女将・西村さんだけということは、知っていただろうか。

「赤駒」は調布の伝統工芸品にも指定されている。西村さんは地元の人に教えてもらい、約3年をかけて赤駒の作り方を習得したそうだ。

西村さんが、ぽつりぽつりと、赤駒のエピソードを聞かせてくれた。

赤駒は、もともとこの地にゆかりのある万葉集の歌にちなんだもの。

赤駒を 山野に放(はが)し 捕りかにて
多摩の横山 歩(かし)ゆか遣らむーーー宇遅部黒女(うぢべのくろめ) 巻二十・四四一七

 
夫が防人に召集されたが、放牧していた赤駒をすぐに捕まえられなかった。ついには歩いて出発しなければならなくなってしまった。

夫の無事を心配する妻の気持ちが表れるこの歌をもとに、「家族の無事」を願って作られたのが赤駒だ。かつては深大寺周辺の農家の女性たちが作っていたという。

7本のタテガミの部分に一番気を遣うという。少し硬めの、一番きれいな藁を選ばないといけない。

「赤駒につける鞍には、古いもんぺの生地を使っていたんだって。だから木綿の生地じゃないといけないの。今じゃなかなか手に入らなくなったんだけどね」


畑が少なくなった今では、主要な材料である藁も手に入りにくいという。西村さんは滋賀県近江の実家にお願いして、赤駒用の藁を毎年1年分ストックしてもらっているそうだ。

「だから作れる量にも限りがあるの。それでもね、変えずに作り続けることが大事なんだよね」

1頭作るのにかかる時間は早くて2、3時間。だから毎日、少しでも空いた時間を使ってコツコツと作りためているという。

干支飾りとしても人気の「赤駒」。

お客さんの要望に応じて作りはじめたのが干支の藁人形。「耳と胴と足とね、それぞれ作っていけばいいのよ」西村さんは言うが、藁の複雑な撚り方はとても真似できそうにない。最近では来年の戌年に向け、犬の人形を目下製作中とか。

「赤駒」を作り続ける西村さん。その胸の内には、昔から続くもの・残されてきたものへの尊敬の念があると言う。

「赤駒も、この店もそう。私で2代目になるけど、もともとは綿菓子屋だったの。その時のことは絶対に忘れないよ。これまで頑張ってきた人がいるから、今があるのよね。だから私もね、絶対に投げ出さないの。大変なことはたくさんある。でもね、守るべきものから、絶対に逃げない」

この店に立ち寄る人たちは、西村さんの言葉・所作の節々にその強い思いを感じるのだろう。「このお店から、生きる哲学を教えてもらった」と言う人もいたそうだ。

顔の広い西村さん。久々に再会した方と握手。

家族の無事を願う「赤駒」。その一つひとつには、西村さんの「守りたい」という気持ちがこもっているみたいだ。

「あなたも、逃げちゃダメよ」

そう言って、茶目っ気のある笑顔を向けてくれた西村さん。そのさりげない一言が、とても強く心に残った。

文・写真/佐藤琴音

深大寺まいり あめや

調布市深大寺元町5-15-10
京王線調布駅よりバスで「深大寺」下車徒歩すぐ
042-485-2768
月休
9:00〜17:00

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